伝えすぎない指導がパフォーマンスの向上につながる

伝えすぎない指導が生む自立:セルフ1とセルフ2の視点から見る指導のあり方

私たちが「指導」と聞くと、多くの人は何かを教え、知識や技術を与えるということを想像するかもしれません。しかし、指導者として本当に重要なのは、ただ教え込むだけではなく、相手が自分の力で問題を解決したり、新しいスキルを身につけたりできるように支援することです。そして、こうした支援をする際に「伝えすぎないこと」が非常に大切です。
人は誰しも、自分で考えて行動したい、チャレンジしたいという思いを持っています。あまりにも指導者が詳細に指示を出しすぎると、相手のパフォーマンスがむしろ低下してしまうことがあるのです。ティモシー・ガルウェイの著書『インナーゲーム』に示される「セルフ1とセルフ2」の概念を使いながら、伝えすぎない指導がどのように相手の成長を促し、最大のパフォーマンスを引き出すかについて、ここで深掘りしていきます。

インナーゲームとは?セルフ1とセルフ2の概念

ガルウェイの『インナーゲーム』では、セルフ1とセルフ2という二つの自己が登場します。

  • セルフ1:批評的な自己であり、内なる声を持つ部分です。これは理論的で頭で考え続ける部分であり、しばしば「自分を批判する声」として現れます。
  • セルフ2:本能的な自己で、体の動きや感覚、直感的な部分です。セルフ2は自然体で、考えすぎずに行動することができるため、最大のパフォーマンスを発揮する上で重要な役割を果たします。

ガルウェイは、このセルフ1とセルフ2がうまく連携することがパフォーマンス向上に繋がると説いていますが、実際にはセルフ1が過剰に働いてセルフ2を妨げてしまうことが多いと指摘しています。
例えば、ゴルフやテニスのようなスポーツで「ボールをよく見て、手をこう動かして…」と考えすぎると、体の自然な動きを阻害してしまい、思い通りにパフォーマンスが発揮できないことがよくあります。頭で考えすぎずに、セルフ2の自然な動きに任せる方が、リラックスしてベストの結果を生むことが多いのです。

「伝えすぎない」ことがパフォーマンスを引き出す理由

ガルウェイのインナーゲームの理論を指導の場面に当てはめると、「伝えすぎないこと」がいかに重要かが分かります。細かな指示を与えることは、相手のセルフ1を活発にしてしまい、セルフ2の持つ自然な能力や本能的な感覚が活かされにくくなります。

例えば、スポーツのコーチングで「手をこう動かして、視線をこの方向に向けて」と細かく指示すると、セルフ1が過剰に反応し、結果としてスムーズに動けなくなることがあります。一方、抽象的なアドバイスを与えたり、少し広い視点で話をしたりすることで、相手は自分自身で動きを感じ、試行錯誤を通じて自然に上達していくのです。

「自分で感じてみて」と伝えるようにすると、相手はセルフ2の感覚に任せて自分なりの動きを探り始めます。この過程が、自己効力感を育む大切な経験となります。指導者としては「できるかどうか」をすべて自分で確認しようとするのではなく、必要な情報だけを提供して、あとは信じて任せることが、長期的に見て相手のパフォーマンスを引き出すポイントとなります。

セルフ2に任せる指導法:信頼と見守る姿勢の大切さ

「伝えすぎない」指導法の中核は、相手を信頼することです。セルフ2に任せるということは、細かな指示を与えずとも相手が適切な判断や動きをできると信じることを意味します。これは、指導者が持つ「見守る」姿勢にもつながります。

もちろん、これは指導者が全く指示をしないという意味ではありません。要点だけを伝えたり、簡潔なフィードバックを与えたりすることで、必要なサポートは行います。ただし、その後のプロセスは相手に委ね、無駄な介入を避けることが重要です。セルフ2は、本能的な判断を通じて、適切な行動を選択できる力を持っています。その力を信頼することで、指導を受ける人が「自分でできる」という自己効力感を育み、結果として自信を持った行動につながります。

実例:失敗と試行錯誤を許容する指導

「伝えすぎない」指導を実践するためには、失敗を許容し、試行錯誤の時間を確保することも必要です。初めから完璧にできる人はいませんし、指導を受ける人が失敗を経験し、その中で学ぶことが最も効果的です。

例えば、ダブルダッチの練習においても、最初から正しいリズムで縄を飛ぶことは難しいです。しかし、「ここで足をこう動かすべき」といった細かい指示を与えず、何度も試させることで、自分なりのタイミングを掴んでいくことができます。細かく指示を出すよりも「まずはやってみよう」という形でスタートさせ、本人が失敗を重ねながら進むことで、最終的には自分の感覚で身に付けた技術となり、長期的な成長が見込めます。

自己効力感を高めるための指導

自己効力感とは「自分ならできる」という自信であり、これを高めることは学びの質や、後のパフォーマンス向上において非常に重要です。自己効力感が高まると、指導を受ける人は自分の能力に対して自信を持ち、積極的に新しいチャレンジにも臨むようになります。

細かな指示を出すのではなく、ある程度の自由度を持たせて「君ならできる」という姿勢を示すことで、相手は自己効力感を感じることができます。これは、心理的にも非常に有効であり、特に成長期にある子どもたちにとっては「できた!」という達成感が自己効力感の基礎を築きます。

まとめ:指導者としての心構えと未来への影響

「伝えすぎない」指導は、指導者としての自信と覚悟も問われます。なぜなら、相手に任せることで短期的な成功がすぐには見えない場合も多く、時には失敗や遠回りを許容する必要があるからです。しかし、このような指導を通して、相手は自らの力で困難に立ち向かい、解決する力を育みます。
指導者はただ教え込むだけでなく、成長を見守り、必要なときにのみ手を差し伸べるという役割を担っています。ガルウェイの『インナーゲーム』が示すセルフ1とセルフ2の理論を活用することで、相手のセルフ2を信じ、自然な成長を促すことが可能です。最終的には、指導を受ける人の主体的な成長と自己効力感の向上に繋がり、それが持続的なパフォーマンスの向上を生んでいくことになります。

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